カモワンタロット(カモワン・ホドロフスキー版マルセイユタロット)を学んでいるため、
製作者の1人で、映画監督でもあるアレハンドロ・ホドロフスキーの
特集上映が開催されている、渋谷のアップリンクに足を運びました。
かつて私も映画関係の仕事をしていたことがあるのですが、
カルトムービーの巨匠と謳われる彼の作品を観たことはありませんでした。
ところが最初の1作品で打ちのめされて、これはできる限り映画館で観ておきたい、
とレイトショーに通いつめて、結局、最新作を含む6本をすべて観てしまいました。
とんでもなく濃厚な日々でした…。
暴力、狂気、恐怖、アイロニー、死の過激な描写があり、奇天烈な表現があり、
安易に友人にすすめたりしたら、距離を置かれてしまいそうな程、
常軌を逸した不条理な世界が次々と展開します。
でも決して低俗でもグロテスクでもありません。
それどころか、圧倒的に美しい映像、鮮烈な色彩感覚、流麗なカメラワーク、
詩的な言葉と音楽…そしてパワフルな創造への情熱が、
神がかりのようにすべてを凌駕し、昇華させていきます。
媚びも虚飾も妥協もない。
純粋な芸術とはこういうものだったのか、と呆然とする思いでした。
毎回、映画館から出るたびに、世界が新しくなったかのように目まいがしました。
もう一度赤い子宮に戻り、また生まれ直してきた、ような…
地の底で燃焼しつくされて、ふたたび緑の地表に戻ってきたような…
嵐が過ぎ去った後で、静かに何かを決意する時のような…
何度も、超絶体験をくぐって「再誕生」し、まぶしい光に目を細めるような気持ちで
夜の渋谷の繁華街すら新鮮に感じながら帰ってきました。
それぞれの作品は、神秘的な象徴やメタファーに富んでいて、
マップのように深めていくこともできる世界なので、
簡単に講評することなど私には到底できないのですが、
すべてに通底して、はっきり伝わってくるメッセージは、
固定観念や他者の価値観にゆだねず、幻想にとらわれず、
自分を赦し、自分の足で歩くことを赦し、自分の手でつかむことを赦す。
ひたむきに「いまを生きる」ということでした。
聞き飽きるほどに耳にしてきた、「いまを生きる」という言葉。
瞬間瞬間、生まれ変わり、瞬間瞬間、自分自身に還る、
その無垢なる魂の旅こそが輝きなのだと、
これほどまでに強烈に感じたことはありませんでした。
この特集上映は、私にとっては大きなブレイクスルーでした。
まだその余震は続いています。
いつか時を経て、あらためてホドロフスキーの作品を観たとしても、
きっと新鮮な驚きと啓発があるだろうと思います。
でももしも、この記事を読んでくださって、ちょっと観てみようかな…と思われたら、
正気のシートベルトは、しっかりとゆるめてご鑑賞ください。